vol.09
2023.3.20

『東京・TOKYOの消費と生産とUV的都市計画』

東京都内の各地で進む大規模再開発のなか、それらの全体像や個々の開発事業を横断した共有と共創の場として、都市開発に関わるデベロッパーとクリエイターにより2019年に始まった「202X URBAN VISIONARY」。シリーズ9回目となる今回は「東京・TOKYOの消費と生産とUV的都市計画」をテーマとして、約3年ぶりに有観客で開催されました。会場となったのは、有楽町ビルにある「YAU STUDIO」。大丸有まちづくり協議会が設けた、アーティストが滞在制作を行う場で、活発な議論が展開されました。
司会進行をつとめたのは、パノラマティクスの齋藤精一さん。初回から参加している建築家の豊田啓介さんとリージョンワークス合同会社の後藤太一さん、初参加となる三輪美恵さんをモデレーターとして、事業者として東急の山口堪太郎さん、三井不動産の佐々木誠さん、三菱地所の藤井宏章さん、森ビルの中裕樹さんが登壇し、それぞれが開発を手掛けているエリアへの提案をしあい、「アーバンヴィジョナリー東京都市計画」の提言へとつなげる回となりました。

【登壇者】
齋藤精一(パノラマティクス主宰)【司会進行】
豊田啓介(東京大学 生産技術研究所 特任教授、建築家、noiz/gluon)
後藤太一(リージョンワークス合同会社代表社員)
三輪美恵(株式会社JTB 常務執行役員)
山口堪太郎(東急株式会社 デジタルプラットフォーム デジタル戦略グループ)
佐々木誠(三井不動産株式会社 S&E総合研究所 上席主任研究員)
藤井宏章(三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部理事、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会 常務理事、DMO東京丸の内 事務局長)
中裕樹(森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部 パークマネジメント推進部 兼 TMマーケティング・コミュニケーション部)


モデレーターの齋藤さんは、今回のトークイベント時に開催されていた『TOKYO CREATIVE SALON 2023』の総合統括もつとめました。このクリエイティブイベントが日本橋・丸の内/有楽町・銀座・渋谷・原宿・羽田の都内6つのエリアを舞台としていることを引き合いに出し、齋藤さんは「東京の地場産業はクリエイティブだということを言い続けてきました。だからこそ東京の街でやるべきこと、街の個性や生態系を活かしながらどう役割分担をし、他の地域と連携していくのかという議論をしたい」と、共催として設けられた「202X URBAN VISIONARY vol.09」の意図を語りました。そして、後藤さんに全体のイントロダクションとなるプレゼンテーションを依頼しました。後藤さんは、時節に合わせて山桜がきれいに咲いている写真を映し、話を始めます。

後藤:年に一度咲き誇る桜は、多様な生態系のもとに花開いています。都市も、華やかな商業施設やオフィスのイノベーションセンターなどに目が行きがちですが、そうしたものは多様な生態系があって初めて引き立ちます。世界中の都市は各エリアに地場産業があり、デベロッパーはそれらの土壌に木を植えるような役割を担っているといえます。当然、木に準えられる建物などの形はさまざまで、根の張り方もさまざまになるはずです。

後藤:日本橋・丸の内/有楽町・銀座・六本木・原宿・渋谷・羽田の7つのエリアについて、特徴的な光景の写真を並べてみます。長年にわたって培われてきた固有のランドマークはどの街にもありますが、比較的新しいビルを見比べてみると、それほど変わりはありません。でも、それぞれの街で新旧が混ざっていることが実は重要です。
もう一つ、クリエイティビティという言葉について共有しておきましょう。これはごく一部の人が持っているスキルや才能のことと思われがちですが、実はそうではありません。「製品の製造と流通のプロセスあるいはサービスの提供プロセスで何らかのインプットがあれば、それは独創的なクリエイティブである」ということがビジネスの基本です。東京都はクリエイティブ産業がどこにあるのかを調査して発表しているのですが、クリエイティブ産業の定義は広告や建築、アート、デザインといった狭いものです。そして、産業やビジネスは一つのエリアで完結しないし、一つの業種にもとどまりません。

後藤:今回のテーマ「消費と生産」という観点からは、エリアごとに3つの角度で見ることが必要だと思います。エリアごとにどのようなタイプの集積があるか、どのような連携があるか、そして分散性についてです。分散というのは、いくつかの地域がつながっていて互いに支え合っているという状態です。7つのエリアは大きさが違うので比較しづらいのですが、各エリアにどのような業種の人がどれほど働いているのかを示したグラフでは、従業者数の業種別の割合に着目してみます。原宿では小売業が半分近く、羽田ではほとんどが運輸業に就いています。製造業を見ると、日本橋や渋谷での比率が多い。丸の内では専門技術サービス業として、企業をサポートする士業の比率が多い。東京の街には消費と生産の両方の側面が当然あって、地区に濃淡があることがわかります。キャラ立ちしているところを生かすも殺すも、その街次第でしょう。六本木では全部が入っていて、エリアの中で取引の新しい組み合わせができる可能性がある。羽田は圧倒的に運輸業だけど、他の地域で運輸業と組もう思ったら、羽田とどう組むかと見るはずです。羽田は、原宿の小売業は流通や卸売を運輸でサポートするかもしれないし、自分のエリアに客を集めれば売れるのかもしれない。縦で見るか・横で見るかと考えながら、各地区でいろんな議論ができるのかなと思っています。
最後の問題提起は、デベロッパーは地場産業にどんな寄与をするのかということです。山の緑も、同じように見えて針葉樹だけの林と広葉樹も混ざった林は特性が異なります。違いをどう捉えるかで、新たなものを加えていきたいというデベロッパーもいれば、大きな流れに乗りたいというデベロッパーもいるでしょう。そのあたりをかき回すことができればいいなと思い、題目として投げ込みました。

齋藤さんは後藤さんのプレゼンテーションを受けて、まずは東京の各エリアについて登壇者が事前に記述していた提案を紹介し、意見交換していくことを示します。ここからの記述は「役職や肩書を外して話し合う」というこのトークの指針のもと、発言は部分的に匿名とします。

丸の内への提案1:全国の基幹産業の心臓部があるので、変革を後押しすべき。
提案1の背景について:日本の産業のポートフォリオをどうしていくかという話です。日本の就業人口・家族の生計を支える基幹産業の本社が集積する丸の内をどう伸ばすかは重要で、中でも規模の大きい、重厚長大の産業にこそ真逆の個人・スタートアップとの知的対流を起こし、そこから生まれる変革の効果を全国に波及させていこうという意図です。なお、知的対流の元となる個人・スタートアップは、どのまちにも必要で、まちに縛らず自由に動いてもらうことが大前提となります。

齋藤:URBAN VISIONARYが始まったとき、日本の財閥系金融のまちである丸の内や有楽町エリアでアートを利用する話が出てきたことに驚きました。それは表現であったり思考的な内容だったりしますが、今回の会場となっている「YAU STUDIO」もその流れで設けられています。大丸有でアートをかけ合わせていくこと、違うものを入れることについて、藤井さんはどう思われますか?

藤井:先ほど後藤さんから業種の分析が示されましたが、この20年ほどで丸の内・有楽町・大手町のエリアでは会計士や弁護士などの士業、コンサルタント系の方々が増えています。オフィスは机に向かって仕事をするだけでなく、さまざまな人と出会いインタラクションすることでさまざまな発想を生み、事業化する場となっています。そのときにサポートしてくれる多様なプロフェッショナルがいるということです。ただ、新しいさまざまなアイデアが生まれてくるためにはその街の集積に多様性がなければいけない。金太郎飴じゃダメなんです。その集積の質の変容を仕掛けるため、アーティストも呼び、広告代理店や制作会社など、よりクリエイティブな方々にもどんどん街に入ってきていただきたいという意図がありました。「YAU STUDIO」ではアーティストが滞在して制作活動をし、ビジネスマンとの接点をもつようにと考えています。

丸の内への提案2:学生の支援や交流を増やして、小中高生がたくさん現れる街にすべき。
提案2の背景について:アーティストとの触れ合いや商業施設も増えて街がカラフルになってきていますが、もっと変わったほうがよいのではないか。小学生や中学生のイベントがもっと頻度高く開催されれば、ダイバーシティーが進むはず。大学生が街に参画する機会もあるようだが、小中学生も継続的に来たら面白いし、親御さんも一流のビジネス街には子どもを送り出しやすい。

丸の内への提案3:新設されるビルには大学を誘致し、住んで楽しいという体験を広めるべき。
提案3の背景について:丸の内に大学の研究所があるイメージです。世界の大学が今、リサーチセンターをシンガポールに設けています。最先端の研究者とその家族が街に来て、生活して学びも全部あるという環境がもっと促進されるべきです。そうしないと、中長期的なレジリエンスは、街として持ち得ない。より広い範囲で強みとしていくことも重要。

丸の内への提案4:エリアを超えたリアルの地域連携を実現すべき。
提案4の背景について:六本木ではアートナイトなどをやっている。大丸有では日比谷公園や虎ノ門との連携をして、歩いて行ける繋がりができるとよいと思う。

齋藤さんは「この通りを超えたら自分たちの領域ではない、という感覚はもうやめたほうがいいですよね。グラデーションのようになっている中間領域で、学んだり遊んだりできる公園のような場所を考えるのはよいと思います」と指摘します。
後藤さんは、「学ぶ」という要素が、生産と消費において非常に重要であることを指摘します。「九州では博多駅のビルに民間のビジネススクールや学校が入った結果、熊本や広島からも学生が来ています。東京でも1つ強いものが必要でしょう。交通アクセスがよい東京駅や羽田空港、品川駅などは、ほかのエリアのためにもやったらいいと思います」と語りました。
それを受けて齋藤さんはシンガポールの成功事例を挙げ、小学生が入るような環境を整備する必要性を語りました。そして、次に渋谷に焦点を当てます。登壇者の提言を紹介する前に、齋藤さんは「Greater. SHIBUYA(グレーター渋谷。広域渋谷圏)」は、笹塚や幡ヶ谷のような住宅街が近接して広がっていることをポイントに挙げ、渋谷は生活が見えているまちであると述べました。

登壇者の一人は、世界のどの都市でもイノベーションディストリクトに人が集まる場所になっていることを指摘します。そのためには住居のバリエーションと量が豊富にあり、誰でも住めることが望ましく、飲食テナントも含めて家賃を上げすぎないのが世界の街の共通認識になっていることを紹介。渋谷は意図したわけではないものの懐が深く、東京のイノベーションディストリクトとしては、渋谷が最も近いと推測します。
しかし渋谷は「若い人が遊ぶ街」というイメージが変わっていないので、イノベーションドライバーが必要といい、エリアとしては渋谷から青山にかけての美竹公園から国連大学跡地が適していると言及。大きな公園があることはイノベーションディストリクトにとってプラスの要素であり、大学や研究センターをつくることを提言します。

別の登壇者は、街の土壌について言及。大丸有は、強固な地盤の上で交流・創発が起きている一方で、渋谷の土壌は柔らかく包摂性は高いものの産業の芯が弱かったと評価し、駅周辺の再開発にあたり、特区提案における「生活文化の発信拠点」と謳ったのは、クリエイティブコンテンツ産業を芯に、国内外から東京に産業が進出する際、いつでも入れる勝手口のようにする狙いがあったことを振り返ります。また「Greater. SHIBUYA」にはデベロッパーが境界線を設ける意図は特になく、多様なプレイヤーが入ってくることで、かえって芯が太く強くなることが期待されます。

後藤さんは「Greater. SHIBUYA」について補足します。「“グレーター”というワードがポイントで、渋谷の周りの代官山、恵比寿、広尾、表参道、原宿まで含めると渋谷駅だけではない多様な世界が広がっています。実は多くの人が渋谷駅の一駅手前で降りている、というようなことは他のエリアでも生じているかもしれません」。
齋藤さんはその例として、表参道の骨董通りは、もともと骨董が流行っていたエリアで、70年代80年代でファッションディストリクトが醸成され、生産と消費が広がっていった過程を振り返ります。
登壇者の一人は、ファッションからデジタルに「かっこいいもの」が移行していくなかで、渋谷は2000年ごろから「ビットバレー」としてITを打ち出したことを指摘。「若い人にとって1番かっこいいものを渋谷は取り続けている」とみました。

とはいえ齋藤さんは「渋谷はまちのカルチャーがすでにリセットされた感覚がある。これには肯定も否定もあるけれど、失ってはいけないものまで壊しているような気がする」と発言します。例に挙げたのは、桜丘の再開発です。「まとめて新しいレイヤや人工地盤をつくるのはいいと思うのですが、大勢の地権者がまとまると、隙間がなくなっていきます。これからの渋谷で“スタートアップの集積”のようなことは、起きないのではないか」と予測しました。
関連して登壇者の一人は、「エリア一帯で緑を増やすことや利便性の向上など、建て替えなければ実現できないこともある」と答えます。ただしそのときに、事業性を合わせるためにビルの高さをただ増すわけにはいかないだろうと補足します。

齋藤さんはここで、「職住近接」に疑問を投げかけます。「例えば渋谷で遊んでいる若い人たちに聞くと、会社は田町にあるとか言うんです。“会社の近くでは絶対に遊ばないです、遊んでいるのを見られたらヤバいんで”と。東京で地下鉄やJRでまちを移動できるメリットは、ほかの地域とつなぐことにも焦点を当てていいのではないでしょうか」と、まちの行き来について意見を募ります。
登壇者の一人は、アメリカでは東海岸のエスタブリッシュな企業が集まる街と、西海岸のスタートアップが集まる街では飛行機での移動が前提となることを挙げ、東京のメリットを強調します。ただ、やはり住居が充実していない現状を語り、丸の内や日本橋の界隈に住宅地をつくることが大事と指摘。駅から遠いオフィスや空き家の活用を例に挙げました。「郊外に住む人もいれば、丸の内や日本橋エリアに住んで働くというライフスタイルも出てくると思いますし、そうであってほしい。生活に密着した施設も必要で、生活の舞台になっていかなければいけない。オフィス街ということだけでなく、広範囲を含めたコミュニティづくりをしていくほうがよいと思っています」と語りました。

これを受けて齋藤さんは、コロナ禍でライフスタイルと人々の行動に対する意識が変わったことを挙げ、働き方にともなう移動についても、意見を求めます。
登壇者の一人は、会社に通勤することがなくても仕事ができることが分かり、好きな場所で働く、地方に住んで二拠点居住をするなど、多様性が増したことを振り返りました。人的資本が重要視され、企業側も働く人に選択肢を持たせることが求められるようになっています。移動を促進し多様な働き方を推進するほうがウェルビーイングが上がるというので国や企業がさまざまな取り組みをしていますが、まだまだ広がりにくい実態があります。登壇者は「大きな企業などがダイナミックにグループをつくり、地域と都心が密につながるようなコミットをすることが必要だし、それだけの価値がある」と提案します。

次に話題を移したのは、虎ノ門・麻布台エリアです。

虎ノ門・麻布台への提案:アジアヘッドクオーターのシンボルやショーケースとすべき。
提案の背景:東京圏では世界レベルの質・量の都市圏が形成されているが、どうしても均質で、ビジネスやアッパー層からはシンガポールが選ばれてしまう。職住を融合した突き抜けたケースを虎ノ門・麻布台エリアでは示せる可能性があるので、メリハリの利いた姿を示してほしい。

豊田さんもこの発案に加わり、「特区というより独立国家をつくる方向がいい」と発言します。「圧倒的な強みを出すために“麻布台はタックスヘイブン”くらいのことをしたほうがいいでしょう」。
現在開発が進む麻布台で発表されている資料ではアッパー層のためのイメージが強いとはいえ、さらに飛び抜けるような発想で街全体を考えることが大事であることが共有されました。齋藤さんも「このエリアではこの生活レベルを保証します」というのも1つの方法、と補足します。

一方で、東京の都心エリアでの開発だけに目を向けることの限界と疑問について、豊田さんから投げ込まれました。

豊田:今回、東京のどのエリアに興味があるかと聞かれたときに、僕は7つのエリアではなく「多摩地区と小笠原諸島」と答えていました。都市はもはや物理的な領域に閉じてスマート化し、価値化することがありえなくなっています。より離散的で流動化していくなかで、地方やリゾートのようなものがすべてネットワークとなり、それらすべてを含めて都市であるという状況が、今いろんなところにあります。前回、森ビルの矢部さんが、デベロッパーは都心で稼ぐだけでなく、地方をエコシステムの一環として構造化することを考えなければいけないと指摘しました。そうしないと、都市以外がどんどん貧しくなり、都市では食べるものがなくなり孤立する状況になりかねません。

登壇者の一人は食料や空き家の問題以外に「エネルギーも、都心部では自分のところではつくれず、地方と良好な関係で両立していかないと、都市の生活は成り立ちません。エネルギーも含めて常に地方を意識しながら、地域の課題解決と一緒に都心のまちづくりをしていくことが必要」とコメント。
ほかの登壇者も、地方都市では魅力的な仕事の選択肢が少ない一方、社会課題は山積してるので、大都市圏との関係人口を増やして、課題解決を通じた産業づくりが出来たらと語りました。また、地方では都心に比して「路面」の魅力があるという話題から出てきたのは、「ストリート」というワードです。
齋藤さんは「ストリートレベルで何が起こっているのかというところに議論がもう一度戻ってきたのではないでしょうか。誰が何をどのようにやっているのかが見えないと、まちの様相はつくれないと思います。再開発でインキュベーションセンターがビルの中間層にあるのはずっと疑問で、まちに貢献しないのではないかと思う」と疑問を投げかけます。
豊田さんは先の発言と合わせて、「多摩地区や小笠原で路面の部分を借り上げて、ストリートレベルの地域貢献施設をつくってもいい。デジタルなネットワークができているなかで、エリアに閉じない土地づくりや組織づくり、流通の仕方はもっとあると思いますし、都市部の人が行き来すること自体が地域貢献につながる。デベロッパーができることはたくさんある」と呼びかけます。

この流れで、デベロッパーの役割についても言及されます。
齋藤さんは「新しいデベロッパー、不動産、まちづくりの人たちが出てきてもよい。中小ベンチャーがこの分野に入ってくることもありうる」と発言。auじぶん銀行では、auやauでんきへの加入などを条件に住宅ローンを低金利で提供していることを引き合いに出し、「一つのセクターだけで稼ぐモデルには限界が生じています。そうしたときに、エリア全体として古い建物や歴史のある施設や店舗をできるだけ多く残したほうがよいと思う」と延べ、日本橋での提案につなげました。

日本橋エリアへの提案1:歩いて楽しいエリアの実現を本気で目指してほしい。
提案1の背景:ニューヨークのひと昔前のSOHOのように、古いものと新しいものが混在している感覚はすごく楽しい。日本橋は歴史のある古いエリアなので、古い建物を上手に残しながら、新しいカフェのようなスポットを戦略的に入れながら融合させて雰囲気を醸し出せばよいのではないか。もう一つは、スタディツアーとして観光の要素を入れてはどうか。観光業界のトレンドは「アドベンチャーツーリズム」や「サスティナブルツーリズム」。歴史を紐解いて、普通は見ることができないものを見たり、本物に触れたり、それによって自分が何か変わったり、地域のためにもなったりするようなもの。日本橋は、そうしたことがつくりやすい場所なのではないか。

日本橋エリアへの提案2:街の中の緑を増やしてほしい。
提案2の背景:ほかのエリアに比べると、緑の量や緑が見える率は少ない気がする。水辺を大切にしながら、周囲のグリーンネットワークとつながることで、さらに潤いを感じられる街ができるはず。

登壇者の一人は、日本橋で10年以上前に立てられたコンセプト「残しながら、蘇らせながら、創っていく」を紹介。古い建物がコンセプトに沿って極力残されていることを示し、古い建物を買い上げてそのまま外国人向けのホステルや、先日オープンしたダイニングバー「Sta.」のように飲食店などに利用する例も紹介しました。

ここで齋藤さんは、まちの文脈をどう使っていくか、一部や全体を残すのか、あるいはほかの考えがあるかと意見を募りました。というのも、再開発では経済性で判断される要素が多く、既存の建物などの文化的な資産が次々と失われている状況があるためです。
豊田さんは「大手デベロッパーの強みはスケールメリットがあり、さまざまなネットワークを持っていることです。それを生かすには、都心だけではなく、いろんなところに階層性があることを活かしていただきたい。同時に、これまでのモデルが通用しない時代には、判断が鈍りがちです。何らかの開発に関しては、40代や30代の人が経営権限を持って、投資判断ができるような部署や社内の取締役制度を設けてほしいですね」と答えます。

登壇者の一人は、大手デベロッパーが総合的になっていることで、投資とリターンだけではない街への関わりが逆にあるのではないかと指摘。デベロッパーのビジネスモデルが変化するに伴い、分散型やDX活用で、収益が一部で下がっても全体としてカバーできるのではないかと予想します。

後藤さんも、総合デベロッパーという業種は日本の一部にしかないことを振り返り、再開発の先のプラスアルファを街にもたらすため、エリアのこだわりをどこに求めるかがやはり重要とします。
そして後藤さんは、都市についての大学院寄付講座をデベロッパー総出で設立してほしいという要望を投げました。「これほどのノウハウがあるのに、都市開発を学ぶ場が東京にはなく、学ぼうとする人はロンドンやボストンに行ってしまいます。リソースを持ち寄って共通知をつくることをきちんとすれば、東京都も後から乗ってくれると思います」。
齋藤さんも「都や国側に条例や法律を変えることを求めるだけでなく、民間が変わってそれに自治体が付いてくるのは、たぶんベストなモデルです」と同意します。

登壇者の一人は、デベロッパーごとのビル、「縦」の世界に、エリアマネジメントに代表されるように、産学公民、みなで取り組むまち、「横」の世界を掛け合わせていくことがより重要になることを予想します。「縦と比べれば横への投資は小さく、持続的な頑張りが街に、ビルに返ってくるはずです」。また、「大規模プロジェクトも、5年後10年後にできるものをすべて着工時に決めてしまうことは難しい。時流をみながら、アジャイルに適応させていく、進化させていく必要があるでしょう。そこで横の取り組みが結果、縦のビルの価値を高める好循環になればと。」と加えました。

さらに別の登壇者は、東京ほど高所得者が多い3000万人の都市は世界でほかにはなく、モノを販売するのに便利な場所として世界中の店舗と営業所が来ている一方で、イノベーションのためにベンチャーを興すにも、東京には土地代や家賃の安い辺境がない状況を指摘します。「マンションを計画すれば値段がつき、その値段が下支えになるためです。これも世界で特異な都市なんですね。ここに関しては、役所の出番だと思います。例えばAmazonが本社をシアトル内でサウスレイクユニオンに移すとき、行政はこれ以上周りにビルを建てることがないようにと制限をかけていました。ビルは半分未満にしないと許認可を出さないというので、デベロッパーは50%以上を住宅にする。しかもそのうち一定割合は公営のアフォーダブル住宅にしないといけないので、入居者の層は幅広くなる。同じようなことを東京都がすればよいのですが、現在では容積率をどんどん上げてしまっています」。

齋藤さんは、ベルリンでも家賃が高いエリアではアフォーダブルの住戸数の割合を決めるルールがあることを補足。「2003年の特措法の発令以降、都市計画は自由競争が進められてきたものの、何かしらの方針が必要ということはわかってきたし、もう一度ガバメントのミッションになるのはいいと思う」としました。
登壇者の一人は、まちづくりに関わってきた人が区長となることでまちがドラスティックに変わったことを挙げ、「まちづくりをしている人たちが、政治を変えることにもっと関わってもいいのではないか」と意見を述べました。また、デベロッパーの社員が出向するときの先として、立場が大きく変わるポジションに身を置くチャンスが増えることを希望しました。

齋藤さんは、『TOKYO CREATIVE SALON 2023』のような、まちを使い舞台とするイベントは、まちへの関心を多くの人に広げ、高める重要な機会と捉えていることを語ります。そして、さまざまな年齢や立場の人が「アーバンヴィジョナリー」のような場で、哲学を合わせることが重要であることを確認します。「あるエリアでつくったものをシェアしたり、ノウハウを共有していくようになっていけば、都市経営として東京だけでなく日本全体のどこに短期的・中期的・長期的に投資をしていくかという判断に役立つはず」とします。
後藤さんは「世界を見渡しても、東京は独特の可能性をもっています。けれど、街を自分ごととして熱く語るような人がまだまだ少ない。この会場には若い人も多く聞きに来てくれているので、もっと若い世代を混ぜて議論するかたちに進んだほうがよいのではないかと思う」と語りました。
齋藤さんはこの発言を受け、「また違うバージョンの回をセッティングしたい」とまとめました。

再開発が進む東京の特徴的なエリアについて、登壇者それぞれが自由に意見を出しながら、東京全体や全国にまで広がりをもって具体的な提言につながった9回目のURBAN VISIONARY。さらなる議論が進み、より多彩でクリエイティブな活動がそれぞれの街で生まれることが期待される回となりました。

Text:Jun Kato
Photo :  Kazuomi Furuya