vol.11
2025.3.19

『UV的実践|都市型イベントの活用とは』

都市開発に関わるデベロッパーとクリエイターによるトークセッション「202X URBAN VISIONARY」。「東京大改造」が進むなかで2019年に始まった車座の話し合いは、企業や役職の垣根を超えて10回にわたり多角的なテーマで議論を重ね、東京の街のあり方を再定義する機会となってきました。11回目となる今回は、都市開発で欠かせない「ハード」と「ソフト」の連携をテーマに掲げ、渋谷キャストにて開催されました。
司会進行をつとめたのは、前回に続いてパノラマティクスの齋藤精一さんです。「202X URBAN VISIONARY」を立ち上げ、現在も事務局として関わる春蒔プロジェクトの田中陽明さんから挨拶があったように、「202X URBAN VISIONARY」は渋谷キャストの周年祭の一環として企画されました。今回は新たな顔ぶれも多く、事業者として東急から寄本健さんと田邊秀治さん、東急不動産から城間剛さんと池田祐一さん、三菱地所から菱田和宏さんが登壇しました。そして昨年に引き続き、今回も東京の街を舞台に繰り広げられるクリエイティブを中心としたファッション・デザインの祭典『TOKYO CREATIVE SALON 2025』(TCS)との共催というかたちで開催。ハードとソフトを繋ぐ都市型イベントをどのように活用できるのかについて、建設的な議論がなされる回となりました。

【登壇者】
齋藤精一(パノラマティクス主宰)【司会進行】
寄本健(東急株式会社 文化・エンターテインメント事業部 アート&カルチャー事業担当/株式会社東急文化村 執行役員 美術・映像事業部 事業部長/東急メディア・コミュニケーションズ株式会社 企画開発本部 シニアアドバイザー/渋谷ファッションウィーク 事務局長/東京クリエイティブサロン2025 統括エリアディレクター)
田邊秀治(東急株式会社 渋谷開発事業部 プロジェクト推進第二グループ)
城間剛(東急不動産SCマネジメント株式会社/運営推進本部/広域渋谷圏推進室/広域渋谷圏推進課/課長)
池田祐一(東急不動産株式会社/都市事業ユニット/渋谷事業本部/表参道・原宿エリアグループ/グループリーダー)
菱田和宏(三菱地所株式会社 事業開発企画部 兼 丸の内開発部統括)

齋藤さんは11回目を開催するにあたり、意見交換の先に具体的なアクションを起こしたいと語りました。「202X URBAN VISIONARY」で議論を重ねてきたことが『TOKYO CREATIVE SALON 2025』(以下、TCS)で実践できていることもあり、都市開発のハードと各エリアにおける文化政策的なソフト面がどのように連携しているのかを深堀りしたい、といいます。登壇者による自己紹介の後には、文化投資とビジネス的な開発の部分、つまりソフトとハードに関する各自の取り組みから聞きました。最初に話したのは、東急で渋谷の開発に関わる田邊さんです。

田邊:都市再生特別措置法ができた2000年代から開発が大型化してデベロッパーが提案するようになり、用途の構成やビジネス化が差別化に繋がっていったと見ています。2010年代ごろからはエリアマネジメント(エリマネ)や街との関わりがポイントになり、その頃から渋谷では「渋谷ヒカリエ」をはじめとした開発が進行しました。
私が関わった「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」の開発は、地元の地権者からお声がけをいただき、昨年に竣工開業しました。特区ではなく高度利用地区なのですが、青山側とヒカリエ側に広場をそれぞれつくり、青山側には地権者に有名なギャラリストがいた関係で、パブリックアートを期間で入れ替えながら展示することにチャレンジしています。ヒカリエ側の広場では、人の流れがとても多いので、ストリートライブなどを定期的に開催しています。こうした取り組みがどこまで地元に根づいていくかが大事だと思いますし、今は品川でも都市計画を担当していて、新しい開発をきっかけに何かを生み出せないかと日々考えています。

寄本:東急では、文化ホールや劇場施設を開発でインストールしてきた歴史とDNAがあります。1956年には「東急文化会館」が開業し、60年には「五島美術館」、67年に「東急百貨店本店」、89年に「Bunkamura」が開業します。2001年には「セルリアンタワー能楽堂」を開設し、「東急文化会館」は建て替えをして12年に「渋谷ヒカリエ」となりましたが、文化会館にあったプラネタリウムをイメージして「東急シアターオーブ」ができています。東急百貨店本店の跡地の「Shibuya Upper West Project」では、「Bunkamuraザ・ミュージアム」の拡大移転が決定しています。また、新宿ではオフィスのない「歌舞伎町タワー」が2023年に開業しました。
ホールや文化用途といったスペース以外でも取り組もうと、コロナ禍が始まった年に、私の所属するエンタメの専門部署が立ち上がりました。東急は以前から自ら興行をしたり、街イベントを多数開催してきたのですが、「時代や街の変化に合わせていろいろなことに挑戦してみよう」と、例えば音楽公演を自主興行として開催してみるとか、あるいはアニメ映画の舞台が渋谷になるときには一緒にコラボレーションし、できるだけ“面的”に展開することに取り組んできました。あるいはチケット購入を強化するなど、“川上”から“川下”まで、タッチポイントをつくる活動を展開してきたのがこの数年の動きです。その中で、例えば三菱地所と一緒に「マグアス」というアートの会社に出資し設立することも行いました。
渋谷の街を舞台にした取り組みの例をご紹介します。コロナ禍にはスクランブル交差点でランウェイの撮影をし、「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」でも鉄骨が立ち上がった段階の工事現場を利用し、ランウェイを行いました。「渋谷フクラス」の地下では駐車場やタクシープールができる前の段階で、ランウェイを実施しました。“ランウェイの波状攻撃”的な展開ですね。
一方で「街そのものを舞台にできないか」と、さまざまな角度から「アート攻撃」とでもいえる取り組みもしてきました。例えば、コンクリートで囲まれた無機質なエレベーターを大きなアート作品で装飾したり、公園でアートを展開しました。また、地下鉄の通路ではプロジェクションマッピングを実施しました。エンターテインメントやアートを発信するにあたって、一流のアーティストが発表できる「檜舞台」のような場所と、ストリートミュージシャンが気軽に演奏できたり裏方の稽古場のような場であったりする「裾野」という両方を用意するようにしています。そうでないとバランスが崩れてしまいますし、観る側も楽しくないので人は集まってきません。「檜舞台」と「裾野」の両方を広げていく取り組みは、しっかりと進めていこうとしています。

池田:東急不動産では「渋谷フクラス」が竣工した約5年前から今年度にかけて合計4物件が順次開業し、ようやくエリアとして面的な価値向上に取り組むステージに入ったと感じています。一つ目は代官山駅前にある住宅を中心とした一部商業施設を含む複合施設「フォレストゲート代官山」です。二つ目が東急プラザ原宿「ハラカド」です。三つ目は、渋谷駅前の大規模な再開発「渋谷サクラステージ」。そして四つ目が、先日情報公開したPark-PFI事業による「代々木公園 BE STAGE」です。私が「渋谷フクラス」を担当していた当時に感じていたのは、ハードとしての施設が格好良く・居心地良くつくられても、「できた後にどう稼ぐのか」「その稼ぎ方に開発をどう繋げていくのか」が、うまく結びついていないもどかしさです。
「ハラカド」は建築家の平田晃久さんに「街を編み込む」というコンセプトのもと、多面体のガラスのファサードで街の多様なカルチャーや価値観を建物の中に取り込むデザインをしていただきました。高さ制限を逆手にとり、交差点側を思い切って開放したうえ3階部分を段々に構成して、交差点側に向かって広がるような屋上空間をつくっています。ここではビジョン(大型ディスプレイ)を設置し、原宿・神宮前交差点の持つ発信力を収益に繋げる取り組みを行っています。もう一つ特徴的なのが、「商業施設は地域のコミュニティの場であるべき」という考えのもと、地下に銭湯を設けたことです。事業としての収益化は難しいため、この銭湯をフックとして企業から協賛いただくかたちを取りました。CMや屋外広告といった従来の広告媒体にマーケティングコストをかける代わりに、施設を訪れた方々に製品などを体験してもらい、企業の価値や本質を感じてもらうというものです。

城間:私はTCSにおいて原宿エリアを担当しています。原宿・神宮前はストリートからさまざまなカルチャーが生まれてきた場所で、私たちが掲げているビジョンは「才能を発掘し開化させる仕掛けを路地と交差点の連動で構築する」というものです。寄本さんの言葉を借りれば、路地が「裾野」であり、交差点が「檜舞台」です。「裏原(うらはら)」のような路地にいるアーティストやブランドの才能と私たちが協業することで力を伸ばしていただき、檜舞台たる交差点すなわちメディアと見立てた「ハラカド」や「オモカド」を活用して情報発信を行い、最終的には世界に羽ばたいてほしいという思いがあります。今回、TCS原宿の施策の一つとして「エリアの会議施策」を設けました。これは「ハラカド」や「オモカド」を中心に、非常に熱心なファンを持つブランドとともに、TCSというプラットフォームを通じて世の中に情報発信していくというものです。

菱田:私は建築設計(三菱地所設計㈱)からキャリアをスタートしています。当時の大丸有エリア(大手町・丸の内・有楽町)は次々とビルの建て替えが進み、「三菱一号館美術館」のような拠点も整備され、ビジネス特化の街から多様性のある街へと変わる過渡期にありました。私が意匠設計者として関わった大手町パークビルは、都市再生特別地区を活用し、都市への公共貢献として敷地が面するお濠の浄化施設を整備し、容積率の緩和を受けています。環境をテーマに建物とまちとの結びつきを実現したプロジェクトでしたが、当時は設計者の立場として、まちづくりや事業性というよりは、プロジェクトをいかに具現化するかに追われていたのかもしれません。
その後、広告代理店に移り、名古屋の「久屋大通公園」でバスターミナルだった場所を暫定的に利用するプロジェクトに関わりました。コロナ禍の影響を受けて当初の想定通りには進まなかった部分もありましたが、現在では祭りやイベントなどで活用される場として機能しています。ここで、都市空間の使われ方やイベントの場づくりへと関心の重心が移っていきました。
三菱地所に身を移した現在、齋藤さんと共に携わっているのは、東京高速道路が事業主体となる「KK線再生プロジェクト」です。これは銀座エリアを取り囲む高速道路が廃止されることに伴い、既存の高速道路を人のための公共空間に再生する都市再生事業です。都心の真ん中にこうした場所を新たに生み出すのは非常にチャレンジングで、都市スケールでの新しい場づくり、コトづくりに取り組んでいる実感があります。

齋藤さんはここで、都市整備と地域開発の現在について共有を図ります。

齋藤:もともと都市開発は、ハード主導で進められることが多かったと思います。私自身、コロンビア大学で最初はニューヨークでハイラインの調査などに関わったのですが、ニューヨークの都市開発では安く物件を購入してリノベーションし、「売り飛ばす」ビジネスモデルが基本でした。一方で日本に帰ってきて驚いたのは、デベロッパー自身が開発を行い、その後も自らエリマネに関わり続けているという点です。だからこそ原宿は原宿らしく、渋谷は渋谷らしく、丸の内や有楽町もそれぞれの特色を保ちながら成り立っているのだと思います。日本ではハードとソフトが単に共存しているというより、むしろ「ハード→ソフト」のような関係にあると感じます。もともとはハードから出発し、多くの企業のトップが「文化が大事だ」とし、80年代のバブル期には文化的な活動が都市や経済の中で重要視されてきました。多様な文化事業を展開した堤清二さんやパルコの増田通二さんのような方々は、まさに経営と文化の融合を体現されていたと思います。
今日ぜひお聞きしたいのが、事業者としては文化と開発の関係をどのように捉えているかという点です。文化と開発は一体で語られているのでしょうか? それとも、開発は開発でビジネスとしての筋を通したうえで文化に入ってもらうよう要請したり、文化施設をつくるべきといった提言が行われたりしているのでしょうか?

田邊:「文化」の意味するところにもよりますが、私が10年前に東急に来たときに、渋谷を開発していくうえでどのようなコンテンツがあるかを社内外で言語化するなかで「文化の種を街にどう実装するか」は活発に意見交換していました。文化の種を不動産の収支にどう合わせていくか、どのような落とし所をつくっていくかはハードルが高いのですね。開発の制度も関係し、具体的な何かに還元できないかぎりはGOサインが出ません。プロジェクト単体ではなく街全体で捉えることができれば別のアイデアがあるのかもしれませんが、それぞれの地権者もいますし、どのように実装していくかは難しいところです。

齋藤:例えば美術館をつくりましょうといっても、地権者から「坪単価が下がって収益性が落ちるのでやめてほしい」といった話が出てくる可能性はありますよね?

菱田:そうですね。具体的な数字に置き換わる時点で悩まれるでしょう。自分たちのビルには特徴をつけて差別化したいという場合も、同様です。

寄本:東京急行電鉄社長の五島昇は東急文化村をつくった時に「文化事業ではあっても、続けるためには稼ぐように」という主旨の言葉を残しています。とはいえ育成であったり、芸術性の高い文化で収益性を高めるのはかなり難しい。それで例えば文化村の場合、自主興行と貸館興行の割合であったり、自主興行の中身に関与していくことも踏まえて、収益性を高めていく努力をする。あとは利益を上げやすいエンターテイメント性の高いものは、用途として入れておく方向があると思います。ただ、劇場や映画館では2層や3層分が必要ですし、裏側の楽屋やバックヤードが大きな割合を占めるので、回収はやはり街を含めないと厳しいですね。

続けて、齋藤さんは再開発における文化の取り込み方について、原宿表参道の「オモカド」「ハラカド」の事例を引き合いに出して話を進めました。

齋藤:東急不動産は、サステナビリティやグリーンに関して先進的な取り組みをされている印象があります。そのなかで「ハラカド」は工事中の仮囲いに文化の側面を押し出し、個人的には東急不動産へのイメージが大きく変わりました。「オモカド(東急プラザ表参道原宿)」が2012年にオープンした時点では、商業施設なのかギャラリー的な場なのかがつかみづらかったのですが、実際は多面的な使われ方がされていたように思います。そして交差点をはさんだ向かい側に「ハラカド」ができたことで、両者が補完し合うようなかたちでエリア全体としての力が一気に増した印象があります。
特に印象的なのは「れもんらいふ」の千原徹也さんが「オモカド」3階にオフィスを構えたことです。千原さんは実際に毎日いらして、文化的な熱のある場が育っているように思います。こうしたスペースは、直接的に坪単価を押し上げるような収益源ではないでしょう。でも、街全体の価値には確実に貢献している。こうした“文化の入り度合い”について、社内での運営チームと計画側との間ではどのような議論があったのでしょうか?

池田:「ハラカド」の再開発事業の計画時点では、商業フロアに文化的用途のための床をあらかじめ設定していたわけではありません。とはいえ原宿という街自体が、ストリートの個性を通じて文化を発信してきた背景から、仮囲いのビジュアルで「ここを文化創造発信拠点にする」というメッセージを発信していました。その流れのなかで、創業の地が原宿であった千原さんから「この場所に拠点を構え、デザインスクールを設けることでクリエイターを育て、原宿に“恩返し”をしたい」と申し出ていただきました。正直なところ、コロナ禍で収益にもとづく事業が成り立たず、チャレンジングな取り組みをせざるをえない状況であったとも言えます。そうしたなかで、千原さんや銭湯「小杉湯」といった方々を施設のコアとして誘致し、文化創造発信の拠点にする新しいモデルをつくる取り組みとして会社からは後押ししてもらいました。

城間:私は「文化」は、自己実現のアウトプットから生じる結果であると捉えています。自己実現のために必要なものとは何かと考えると、「表現すること」「表現するための場所」「表現されたものを受け入れてくれる場」です。コロナ禍を通して浮かび上がったのは、生活者としての価値観が、もはや生活必需品を求めることや、自己承認欲求を満たすための消費といった段階を超えてきていることです。これまでのビジネスは、「欲しいモノを売って収益を上げる」という構造でした。けれどもこれからは「自分を実現するための表現活動の場」を用意することで価値が生まれ、対価を支払ってもらうビジネスモデルに移っていくのではないかと思います。「ハラカド」ではよく「都市メディア」という言葉を使います。商業施設やイベントも一種のメディアだと捉え、自己実現や自己表現を後押しするものであれば場所を使うことで価値が高まり、自然とお金が集まってくるのではないかと考えています。

齋藤さんは「文化」や「知性」を経済に結びつける試みについて、今度は菱田さんに尋ねます。三菱地所は大丸有での「有楽町アートアーバニズム」など、エリマネとしては最前線の実践をし、官民連携による観光誘致などにも取り組んでいます。

菱田:大丸有エリアは、もともとビジネス特化型の街として発展してきました。現在は少しずつ文化的な要素を丹念に拾い上げ、育てている段階だと思っています。私は、文化は与えられるものではなく、街に根ざした人たちが主役となり、自分たちの手で育てていくものと考えています。すでに内在している文化的な界隈性をどう伸ばして顕在化させていくかが、開発のソフトに繋がる一つのヒントになるのではないかと考えています。

齋藤さんは、オフィスなど不動産の坪単価や稼働率の低下が危惧されるなかで「経年で何かしら上がっていく要素が必要」といい、そのためにはエリマネが関わること、また文化と開発が両軸で歩むことの必要性を示唆します。例えば、LEED認証・WELL認証などの環境認証制度をハード面で取得しても、運用で投資し続けないと片手落ちになります。文化面では「Bコープ(B Corp:社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度)」のような「都市開発版Bコープ」が必要ではないか、と訴えました。指数関数的な効果は通常は起こり得ず、時間と投資効果を示す図のように、坪単価が下がっていくときに投資することでまた上がることを継続するしか道はないのではないかと投げ込み、意見を仰ぎます。

田邊:これまでデベロッパーは、箱をつくり大家として運用することが事業の柱になっていました。今後はオペレーションの仕方を工夫し価値を維持するか、もしくは上げていけるかということに知恵を絞らねばならないフェーズに入っています。大型開発が落ち着いて競争が激化していくなかで、付加価値を高めることをいかに続けていけるか、それを指標化できるかどうかが分かれ道なのだろうと思います。

寄本:長期的な取り組みでなければ、効果が出る前にやめてしまうことになるでしょう。文化の中でも特にアートは、「アーティストがつくりたいものをつくる」のであって、「つくってもらいたいというのでつくる」というのはまた違いますよね。でも例えばオフィスビルであっても、文化がしっかりとした産業になっていれば、文化事業を生業とした人が床を借りて不動産事業に繋がるはずです。

池田:文化事業だけでの収益化は難しく、ミックスではないかと思います。オフィスで、スタートアップの収益を中長期的に取れるような仕組みは参考になるかもしれません。あとはメディアをリテールと掛け合わせ、デジタル情報を収益化していくことも考えられます。文化もあるし、ショッピングもデジタルも産業育成もある、というトータルでペイしていく考え方が適していると思います。

齋藤さんはここで、森記念財団が作成する「世界の都市総合力ランキング(GPCI-2024)」を参照しました。2024年は1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位が東京という結果でした。都市の総合力を評価する経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野のうち、大きなポジションを占めているのが文化です。また日本のコンテンツ産業はすでに鉄鋼業や半導体産業を抜き、今後も伸びると予想されています。2020年からスタートしたTCSは、今年は丸の内、日本橋、銀座、有楽町、赤坂、六本木、渋谷、原宿、新宿、羽田のエリアで120以上のイベントを実施。各エリアのデベロッパーをはじめ、さまざまな業界が参加しています。齋藤さんは開発に文化を含めることが施設や街に戻って来る効果をあげ、TCSは予行演習として活用できると語りました。そのうえで登壇者に、TCSへ参加した経緯や期待することを聞きました。

寄本:TCSには5年前から加わっていて、複数のエリアでのイベントであることが魅力です。渋谷の民地で地元に向けて行うイベントでは、盛り上がりに欠けます。またTCSでは移動時に公共空間を活用する必要があり、それには区のほか都や国のものもある。だからこそ、自分たちだけでは突破できないような課題を解いて開くことができると思います。またTCSでは渋谷であればストリート、日本橋であれば老舗などのテーマを掲げて街を回遊することが想定されていますが、各エリアで共通のコンテンツがあれば、それはそれで面白いかもしれません。

田邊:都市型のイベントでは、エリアの中でそれまで繋がっていなかった拠点を繋ぐのも重要なポイントと思います。一つの施設だけでなく街に来てもらうには、頭の中の地図が広がっていく必要があるためです。

齋藤さんは、自社内で完結させることなく他社や行政とも連携し、お互いに価値創造していく機会がTCSのような都市イベントにはあると指摘します。その意見にまず反応したのは、池田さんです。

池田:原宿エリアで先行してラフォーレやヒルズをされている森ビルの担当者とは、TCSをきっかけに話をするようになっています。また「原宿クエスト」を開発しているNTT都市開発や8つの商店街にも参加が広がっていけば、新しい価値をそれぞれのエリアでつくっていける可能性があると感じます。

菱田:都市規模のイベントで公共空間をいかに使っていくかという話では、三菱地所は丸の内仲通りを舞台にして「MARUNOUCHI STREET PARK」を2019年から開催していて、今年で13回目を迎えます。行政と連携し、道路空間などを含めて街としての価値をつくる取り組みには、これからも大きな可能性があると思っています。

齋藤さんは今後TCSで「202X URBAN VISIONARY」の一環として、デベロッパー側から文化拠点を発信する方向性がありうるのかを尋ねました。寄本さんはこの話題に関連して、次のように続けました。

寄本:トリエンナーレやビエンナーレ的なイベントはありますが、エリアが限定されていますよね。またアートに関していうと、ギャラリー主導、学校系、美術館系、フェア系とそれぞれクラスタができているように感じます。その点で、昨年に開催された「東京建築祭」は、目からウロコでした。「こんな建築があるよ」と普段公開していないところを含めて公開することで、「こんなに人が集まるの?」というくらいの盛り上がりを見せました。いろいろと混ぜた状態にしたほうが、より多くの人に見られるように思います。

菱田:インバウンドを取り込むことによってパイが拡大するならば、エリア間で競い、人を取り合う必要もなくなっています。デベロッパーが自分のエリアについて他と差別化することに終始していては、視野が狭い気がするのですね。TCSでもお互いに別のエリアのリサーチをしてみるとか、他社の庭でイベントをしてみるといったことで、これまでとは違うことが生まれるような気がします。

齋藤さんは菱田さんのアイデアを受けて早速、「来年しましょう」と応えます。続けて池田さんと城間さん、田邊さんはTCSを通じた都心の街と地域との結びつきの強化や、地域のブランディングについてアイデアを投げかけます。

池田:都心と地域でさまざまな交流を進め、新しい文化をつくろうという動きも、これから多くなっていくと思います。渋谷であれば、防災協定を蓼科や甲府などと結んでいたりするので、そうした土台をもってエリアと地域の特色をTCSを通じてより強く結びつけることで、新しい何かが見えるのではないでしょうか。

城間:私は都市型イベントは、点を面にする機能が重要だと思っています。同じエリアとされている範囲でも、丸の内と有楽町、原宿と代々木では色が異なります。TCSというプラットフォームを通じたトンマナが、世界の人にどう受け取られるのかに興味を持っています。自分自身、これまで原宿の視点でしか物事を見ることができていなかったのですが、TCSを通じてさまざまなコンテンツや共通するテーマに触れることができ、いろいろと気づきがありました。

田邊:私は、メディアで繋ぐことでの広がりを実感できています。TCSはファッションやクリエイティブ系の人たちをターゲットとしたアプローチとはいえ、東急電鉄沿線の駅にポスターを貼ったりしているので、認知拡大のポイントになっています。今後も東京の価値について、新しい切り口を見つけていく必要があると感じています。

続けて齋藤さんは、事業計画の中に文化的な都市型イベントを入れ込むことは、社内への説明を含めて手間暇がかかることから、都市開発の文脈で、行政に期待する意見を促しました。

田邊:エリマネはもう当たり前になってきていますが、エリマネで何をするのかを行政側が見極め、そこにボーナスが与えられるなら、継続的な取り組みになると思います。運営側もなかなかエリマネにコミットできていない状況もありますが、開発の最初から意識することでエリマネの活動を組み込むことができるのではないでしょうか。

菱田:本来は、竣工してからの長い期間にさまざまなコストやリソースをかけながら街のためにしていくことが重要です。現状では、行政によるインセンティブは、容積という形でイニシャル時点に与えられていますが、ランニングで、税金やカーボンのようなものなのか、何か違うものに転換してインセンティブが与えられるような仕組みが必要なのだろうと思います。

齋藤:竣工式のとき「今日からオープンします。今日をもって準備会社は解散です」と発表されるのには、いつも違和感があります。一般社団法人のエリマネにおまかせするといっても、なかなか難しい。私は、行政も事業者との仲介や連携をしていくべきだと思っています。

池田:特区の再開発の場合は、東京都に履行報告をします。民間主導での提案にしても、運営フェーズでの取り組みによって得られる結果について評価され、年度の活動を大きくしていくためのインセンティブに繋がる仕組みができると良いのではないかと思います。

城間:今回のTCSでも、商店会と連携施策をしつつキャットストリートでランウェイをするのですが、毎年同じ申請をして許可をもらう必要があるのですね。何年実績をつくっても同じやり取りをしているので、例えばこうした手続きが体系化されるなら、続けていくハードルが下がると思っています。

田邊:持続のためには、規制緩和も大事だと思います。広告の出し方や、公開空地の活用の仕方については、まだメニューは出せるはずです。行政で縦割りの部分や法律の壁があり、どう突破していくかは、知恵の出しどころではないでしょうか。

寄本:一つ、行政の仕組みではないのですが思いつきました。企業版ふるさと納税の活用です。デベロッパーは本社の所在地や活動している街には寄付できませんが、TCSを通じて他社の街にふるさと納税すればいいのではないでしょうか。イベントをするには、協賛や補助金など何らかの収入が必要です。経済効果が出るには時間がかかるので、最初はふるさと納税の仕組みを利用して、うまくいったところにまた違うイベントなどで資金を使えるといった可能性があると思います。

齋藤:それも来年からやりましょう。東京都だけでなく複数の区の議会で、1度メニューをつくる必要があるでしょうね。一方で私がずっと気になっているのは、ミラノ・サローネの運用です。あれは行政が絡まずに、民間のメディアが主導してブックを刊行する活動をして、相乗りの連続を生み出して盛り上がってきました。行政に背負わせるだけでない、持続できる方法を考えていかなければなりません。エリマネの活動自体で継続的なインセンティブが得られる方策はTCSとして提言を出して、まちづくりのハードとソフトに反映したいと思っています。

この後、会場からの質問に答えるかたちで、広告条例や景観条例の中で壁面アートを展開した具体例が説明されました。今あるルールの中でも表現活動をうまくサポートしていくのがデベロッパーの役割であり、TCSのような都市型イベントは既成のルールや体制を“マッサージ”し、解きほぐす効果があることが確認されました。

齋藤さんは「202X URBAN VISIONARY」について、TCSを通じて実践することの宿題ができたことを振り返り、今後はより具体化するために「URBAN VISIONARY・スピンアウト」のような場を年に1回とはいわず、複数回設けていくことを提言しました。

Text:Jun Kato
Graphic:Bowlgraphics(TOKUMA)
Photo :  Kazuomi Furuya