前編に引き続き、後編ではトークセッションの様子をお伝えします。
【登壇者】
齋藤精一(パノラマティクス主宰)
後藤太一(リージョンワークス合同会社代表社員 プロジェクトデザイナー)
山本恵久(日経クロステック 日経アーキテクチュア編集委員)
雨宮克也(三井不動産株式会社 開発企画部 開発企画グループ長)
重松眞理子(三菱地所株式会社 都市計画企画部 ユニットリーダー)
中 裕樹(森ビル株式会社 タウンマネジメント事業部パークマネジメント推進部兼 TMマーケティング・コミュニケーション部)
片山良治(東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部品川まちづくり部門 副課長)
吉澤裕樹(東急株式会社 ビル運用事業部 事業推進グループ 価値創造担当 および 沿線生活創造事業部 エンターテイメント事業推進グループ企画担当)
「202X URBAN VISIONARY」vol.7は、ワークショップ形式に続いてディスカッションが行われ、渋谷キャスト内のスペースで行われたこの模様は、You Tubeでライブ配信されました。
齋藤:前半のワークショップでいろんなキーワードが出てきましたが、最後に、どういうルールが必要なのだろう、どういう共通基盤が必要なのだろうという話をし、そのときに、ビジネスと都市開発は、本当はビジネスドリブンでなければいけないのに、なかなかそこが実は連携していないという話もありました。
後藤:今日のディスカッションは大手のデベロッパーによるもので、やはり営利企業の視点をベースに置いていると思うのですよね。それと公共的な意識がすごく強い都市の議論が、微妙なミスマッチを起こしていると思っていて、そこをつなぐ努力がいるのではないかと改めて思いました。
海外と比べて日本はビジネスのデータがあまり共有されてないために、ビジネスと都市計画の接続が弱いですし、官民の分断だけではなくて、大学の学問としても不動産学と建築学と都市計画学が縦割りだとか、いろいろな壁があります。小さな一歩でも構わないので、ここにいるみんなで壁に蟻の一穴を開けられないかなというところが関心事です。
齋藤:経済ドリブンで街をつくっていくというのも1つ大事ですよね。もちろん文化的な視点もつくっていかなければいけないと思うんですけど、最終的には経済に返ってきます。今回、前半のところで、税制を変えたほうがいいのではないかという話も出てきたと思いますが、経済ドリブンの都市開発みたいなのがもっと必要ではないかと後藤さんも意見があると思います。いかがでしょうか?
後藤:誤解のないように言うと、経済は大事ですが、経済の奴隷になってもしようがないと思っています。道徳なき経済は犯罪だし、経済なき道徳は空虚です。そこは両輪だという大前提で考えると、日本の都市計画の議論は公共に寄り過ぎていた面があるかな、と僕は思っていました。
一方で、都市再生特別措置法を契機に民間はビジネスとして開発をつくるようにと政策転換があったことによってビジネスと都市計画のミスマッチがさらに広がってしまい、今、都市計画と都市開発のギャップはすごく大きいと思っています。
そして不幸にして、今起きているこのコロナ禍で、CBD、中心商業業務地区が従来のような不動産のパフォーマンスを出すのが難しくなるかもしれません。意図せずとも都市計画と都市開発の転換期に差し掛かってしまったので、まさに今こそ「災い転じて福となす」、東京の変化の一翼を担っている皆さんが、何らか新しいアクションを動かし、考え始めるときが来ているのではないかと思います。
齋藤:特措法の話が出たところで、山本さんに聞きたいことがあります。特措法 は2003年に施行されましたが、それまで戦後はどちらかというとマスタープラン型の作り方をしていました。ここはこの不動産会社にやってもらうということが多かったと思うのですが、前半のワークショップで出てきたのは共通基盤をつくろう、もしくは規制緩和をもっと行政にやってもらおうという話でした。
山本:都市再生の動きは、エリアごとの都市貢献みたいなことを判断基準にして容積率を増やしたり、経済性を上げるような開発ができるようなことをやってきたと思います。都市貢献の内容が実際その容積に対してどう関わっているかは、恣意的な判断もあると思います。都市に対してどう貢献してどう経済性が出るのかというのは、実はそれほど東京都や国のコントロールではっきりと分かるわけではなかったと思うのです。そもそもそうしたデータを取れていなかったので、ITで方法論が変わるかもしれません。そこでマスタープラン型がいいのか、エリアごとに独創性を出すのがいいのかは、私もどちらがいいのか分からないところがあるのですが、やり方がもう少し進化する余地はあるという感触はもっています。
齋藤:六本木ヒルズなどは職住遊近接のつくり方ですべてつくられています。その前はアークヒルズの六本木一丁目下の開発、虎麻(虎ノ門・麻布台)を含めいろんな大きな開発をされていますけど、今の話を聞いて、共通で作ろうということのポテンシャルは感じられますか?
中:前半のワークショップで面白かったのは、デベロッパーが多すぎて、近いところで競い合っているのではないかという話題です。もっと組み合わさって一体でやったほうがいい街になるし、責任をもってやれるのではないかと。また、自分はこれまでに街づくりをしていても鉄道の感覚がなかったので、今日いらしているJRさんとか東急さんなどと組み合わさっていったり、僕らが街の中でやってきた活動やデータの取り方などに、少し違う視点が入ると広がっていくのだなということをすごく感じました。
片山:JRという会社はデベロッパーというより鉄道という目でみなさん見ていると思うのですが、街づくり開発をするときもリアルネットワークありきで考えてきたところがあります。これからは、リアルネットワークだけでなくデータ社会になっていったときに、これまでは正直に言ってJR沿線以外のところのネットワークはあまり意識してこなかったのですが、そこがデータでつながることで可能性は広がるのではないかなと思っています。
齋藤:データの出し方の話が出たので、そこをもう少し深掘りできたらと思います。共通基盤をつくるのかということはワークショップの中でも出てきたのですが、いろんなかたちで各社さん、データに対する取組みというか、もしくはICTに関する取組み、もしくは人流に関する取組みとか、できるだけデジタルで全体の把握をしよう、もしくは全体最適をOUTCOMEとしてOUTPUTとしてやろうというのは、やられていることなのだなということを改めて思いました。では、それがどうつながるのかっていうことと、先ほどもいろんな議論になったのは「誰が始めたらいいのか」という話がありました。
雨宮:不動産業におけるDXは、意外と会社の中でも分かっているようで分かっていない領域です。そういった中で、やはり都市や街づくりの分野では公共施設と外の施設との人流だったり、車の流れだったりが、大きな企業のデータを集めればできるだろうなということは漠然と思います。不動産業でなくても、データをオープンソースとして出すことによってオープンイノベーションが起きて、それによって世の中に対して付加価値が付いてくる、そうした新しい価値の創造のようなものが見えてくることが重要なのかなと思います。
齋藤:デジタルにしてどう儲かるのか、どう価値を高めるのかというところは、都市伝説化していると思うのですよね。
デジタルによってできることは、ものすごく解像度高く街を見るとか、もしくはこれまでユーザーとか来客者とか来訪者と言っていたのが、実はデータの取り方でどういう方々が何人くらい、どういう属性で何を目的にして来ているのかということが分かる。どこが不動産として空いていて、どこが賃料が高くて、どこが賃料が低いのか。あるいは自分たちがエリアマネジメントしているなかにどれほどの企業がいるのか。それで株価がどうなっていて、ということなどは、やろうと思えばできます。
エリアマネジメントで三菱地所さんがやられている大丸有は、日本で歴史が一番長くて、たくさんの企業がいると思うのですが、何か思われることはありますか?
重松:みなさんが言われていることを通じて思ったことは、誰もやったことがないので良いか悪いか分からないことを信じてやってみることができるのは、今までエリアマネジメントやっていたからこそではないかということです。
また、デジタルの世界にしても、先ほど話にでていたマスタープラン型なのかエリアごとの独創性なのかという問いや、前半のワークショップで出ていたデベロッパー多すぎ問題とかが議論されるのかもしれませんが、そういったことにすべてに通じる話としては、適切な単位があるような気がしています。要するに本当にインフラ的にみんなが使える共通基盤というのがあってもいいのですが、エリアのまとめサイトみたいな、このエリアにフィットするデータの種類だとか、データの使い方をコンシェルジュするとか、そういったことの担い手がいるとか、それを表すような単位の基盤というのでしょうか。そうしたものがあることが、実際の街づくりにつながっていく。ですからマスタープランも、ローカルなマスタープランがつながって大きくなっていくということ。但しすごく基礎的で共通的なマスタープランは別途あったほうがいいのかもしれません。
もう一点、私としては、デベロッパーは逆に少なすぎるのではないかという気持ちすらあります。多すぎるように見えるのは、同じようなデベロッパーや同じような振る舞いをするデベロッパーが多いという問題だと思います。本当であればもう少しいろんな主体が街に参加していくことが必要なのではないかと思うのです。デジタルというきっかけで参加できるようになってくると思いますし、そこには一定のリテラシーが必要で、対話できる勉強をしなくてはいけません。同じ共通言語ができるようなレベルまで共通に高めていかなければいけないのですが、そうした役割をもしかしたらデジタルの基盤を見せることで共通化されてくる、という可能性があるのかなという気がしました。
齋藤:僕が最近かかわった仕事で、国交省がつくった「PLATEAU(プラトー)」という3D都市モデルがあります。モデルだけではなく、アーキテクチャーなのでその上に情報が重ねられるようなことです。こうしたものに、先ほどの「まとめサイト」みたいなものをどんどん置いていって、そこから価値を高めていくようなことができないのかなと僕は思っています。
前半のワークショップのまとめと今のお話を聞いていて、個人的にはブロックチェーンのように、いちど連合でNDA(秘密保持契約)の契約を結んで、例えばデータをバーンと出し合って、そこから、もしかしたらコストを払って使えるようにする、クローズドのまとめサイトができないですかね。それをしてみてからだんだんと、もしかすると民間企業がそこにお金を払ってデータを欲しがることが出てきたり。
後藤:どういうデータをそこに投げ込んでいくかのときに、最初に問題点として言ったように、都市計画とビジネスのギャップがあります。これを埋めるには、現状ではたぶん各事業者さんのお宝資産と思われている本当の不動産取引情報。これが何らかの形で入っていかない限り、永遠にこのギャップは埋まらないのかなと。
例えばですけれど、ビルごとに入居されている上場企業の企業価値を株価から計算して、それを経年で見ていけば、どのビルのテナントさんが結果的に成長しているか、してないのかも見える。それはビルのせいだけではもちろんなくて、社会経済情勢とかエリアのこともあるのですが、そうやってギャップになっている部分、ビジネスと都市計画をつなぐことを別アプローチでやっていったほうがいいと思います。これはたぶん、民間の努力だけでできないこともあるとは思うのですが。
齋藤:東急さんは、渋谷に関しては比較的イニシアチブを持っていることが多いと思うので、今の後藤さんがおっしゃっていたプロパティマネジメントや、テナントとのリレーションシップマネジメントみたいなところで、やろうと思ったらできるのかなと思いました。いかがでしょう。
吉澤:街づくりの評価なり価値指標というものが、各デベロッパーの中にいろいろあると思っています。そこを少し詰めることで、こういう価値を測るためにこういうデータが欲しいよね、というところが、けっこう難しいかと思いました。売上げとか集客とか稼働とか、定量は分かりやすいんですけど定量にしにくいものとか、定量だけどどうやるといいのだろう、そういうものをうまく共通認識できると、考え方も釣り合ってくるし、そこもプラットフォームになるでしょう。DXでみんなのデータを活用しようといっても、社内の一般管理部門でデータの戦略をつくっている人などはたぶん、ビルや不動産部門でどういうデータをどうすればいいかというところまではたぶん詰めてくれません。
齋藤:後藤さんが言っていた不動産取引、不動産取引所みたいなことが、もしかしたら今お話に出たように価値観がそれぞれ違い、そこの部分を合わせるからこそ取引所が成立すると思うのですよ。
例えば、東京証券取引所のようにです。あれもいろんな価値の定義があって、企業価値の定義とか、企業にプライシングが付くというのもできると思います。不動産はプロパティマネジメントをしているとそこで価値が付くのですが、もう少しマクロな意味で価値が付く。例えば僕は個人的にはPLATEAUみたいなのを使って、全体的に不動産の価値を俯瞰できるようなことをつくっていくっていうのも1つかなと思います。
中:私は森ビルで虎ノ門・麻布台というプロジェクトをしています。そこでグリーン、環境にいいことをしようとしているのですが、今は社会的な流れもあって脱炭素ということがあると思います。一企業では人の動きの分などの想定はできるのでCO2の排出量は計測しやすいのですけど、街としてやるとけっこう難しいなと思っていて、そこはモビリティや移動と組み合わせないとうまく出せないのではないかと思っているところがあります。
都市に人は集まるし、来てもらうのですけど、それが環境に悪いと僕らは言われたくないし、来たほうが環境にいいくらいのことをしてみたいと思っているのですけど、そういうところはデータの意義があるのではないかと思っています。
齋藤:聞いていて、今はWELL認証とかLEEDとかCASBEEといった認証がいろいろありますが、もしかしたら後藤さんや吉澤さんが言った、きちんと価値を揃えていくという意味で、認証制度をうまく使うこともあるのではないかと思いました。
後藤:認証は価値の一つの象徴的な形だと思います。例えば、東日本大震災の後に、東京の企業が外資を中心に一時的に福岡に移られた。それはきっと、福岡のほうが安心に感じられたからでした。北京があまりに大気汚染がひどくて居づらいので別の街に行くとか、都市ごとに対する評価や認証はあると思います。
齋藤:グリーンなどの機能的価値は、OUTCOMEとして分かりやすく数値化できると思うのですよね。
片山:不動産価値みたいなものが賃料価値として聞こえているところがあります。価値基準を揃えるなかで、環境がどういう水準かというデータを出していくことは普通にできるのですが、それが何に跳ね返ると価値が高かったのかというのは考えていかないといけないだろうと思っています。
少しJR的なことでいうと、私は高輪ゲートウェイの開発をしているのですが、そこでもいわゆるエリア認証とかLEEDのNDなどを取っています。それらと一緒に、C40(シー・フォーティ)という環境的な座組もあります。そこの環境の取組みは、エネルギー設備やCO2のような話だけでなく、廃棄物をどうするとか、それこそ交通をどうするというところがきちんと網羅されているのですね。そういう観点では、JRはエリアの開発だけではなくてモビリティとかMaaSとか含めたプラットフォームになりうるとは当然思っています。
ウェブとかデータとかでつながったサービスが、最終的にユーザー価値に還元されることによって経済価値にきちんと跳ね返る。やはり最後は個人に利益が還元されることが必要だと思うので、そこをトータルでつなげるようなことができていったらといいのだろうなと思いました。
齋藤:今片山さんがおっしゃったC40というのは、気候変動に取り組んでいる世界の大都市ネットワークになっています。ちょっとデータが古いかもしれないですけど、世界で97の都市を連携してデータを出しながら気候変動に対してどういうふうに大都市圏が取り組めるかいうことを考えている連絡会です。今の環境認証のようにデータを出し合って、みんなで東京の価値を高めていく。環境認証的にも上げていく、不動産価値的にも上げていく、文化度も上げていくということはできる可能性がクリアに見えた気がしたのですよね。
雨宮:齋藤さんの言われたような、クライテリアのつくり込みの可能性はあると思います。一方で、先ほどの後藤さんの話もお聞きしていて、ミスマッチの話から、データは何を入れるのかという話と合わせて考えていました。1つは日本人の気質もあるのでしょうけど、例えば公的地価と言われている公示地価があり、都道府県調査地価があり、路線価があり、いくつものデータをそれなりにつくって、それらを使って8割だと実勢価格だという話になったりしています。開示しないというか、分かりづらいという文化がどうしてもあると思います。
一方でREITなどは非常に情報公開というか、投資家のために不動産の内容も開示されていて、あれによってマーケットが認識されて、プロがきちんと行動する場所としてできています。そうなってくると、今言われたようなクライテリアをもってというところは合理的なのだろうなと思っています。
重松:環境性の話でいうと、ここにいるほとんどの方々の対象の物件はテナントさんがいらっしゃるビルですよね。需要のコントロールをどうするかというのはけっこう大きな問題で、そこはたぶん各社ともあまり突っ込んできませんでした。ちょっとした事例を言うと、少し前はものすごくピカピカに明るいビルが商品性として高くて、例えば700ルクスですというのがどのビルもパンフレットに書いてありました。でも今や「700ルクスも使っているの?」ということにもなりかねません。でもそれは、テナントさんが商品性としてどうやって受け入れるかというところもありますので、そういったところはもしかしたら一緒に、一定のメッセージとして展開できる部分かもしれないなと思います。あとはビルを超えたエリア単位ですべき仕組みの変化でいうと、先ほど言われたような循環の世界観があります。ゴミの収集でもそうですし、サーキュラーエコノミーやサプライチェーンで言うと、取引先も含めて各社単位・建物単位で仕組みが整っている世界をどう変えていくか、ということなのですが、どうすればすごく効率的になるかというのは、たぶんデータで示せる話です。デジタルとDXの違いというのでしょうか、デジタル化から仕組みを変えるDXまで至るというところに、各社が連携する世界観のヒントがあるような気がしています。
齋藤:僕が知っている限り、CASBEEに関してはエネルギー消費、環境、資源循環、地域環境、室内環境。DBJやグリーンビルディングの認証とかBELSとか、あとSMBCさんがやられているもの、あとは東京都がやっているCO2排出ベンチマークによる環境物評価システムというのがあって、実はwell認証というのが入ってないんですよね。
今は民間でできることを話しましたが、逆に行政にしてもらいたいことを最後にしたいと思います。これまでの1つのまとめとして、明日からできそうなこととして、デベロッパー連合などで1つ大きな認証制度をつくって、それに対してデータを出していくというスキームをつくる。しかもそれがずっとアップデートされている。最終的にはSDGsの話にもなるし、もしくはテナントを選ぶことになります。例えば比較的WELL認証を持っている会社は、どのビルでもいいということにはなりません。そうしたことをしていくのは、1つあるかなと思います。
後藤:3年後のことが分からない時代に生きているときに、長期計画を立ててブレずにやるというのはナンセンスです。方向性を示す北極星はいいとしても、やり方は細かく直し続けないといけないと思います。日本だと都市計画法上の都市計画マスタープランはあるとしても、関連する政策の構造自体をイニシアチブを受け止めるように変えないといけません。都市再生は行き過ぎだったのかもしれないけれど、僕がポートランドの経験でモデルにしているのは、骨格計画はブレずにつくること。すなわち、「この地区はこのようにします、ここはこんなふうにします、インフラはこうします」ということです。
日本には総量を測り続けるということがありません。東京に今どれだけのビルがあり、新しいものが最近どれほど増えて、そのうちどれくらい埋まっていて賃料がどれくらいという全体指標みたいなものは、いずれ公共側で世の中に見せていき、それをよりどころに個々の民間が切磋琢磨していく、あるいは連携していくというガバナンスに行き着くべきだと思うのですよね。
行政側で不動産実務やビジネスのことをもっと分かっている人を短期的に増やし、裏返せば民間側で公共的な都市計画を分かる人を増やさないといけないと思うのですが、そうした人材交流、人事交流は、自分自身がそういう人生を歩んできたというのもあるのですけど、今の制度の中でもやればできることだと思うのですよね。ぜひ、東京のように多くの民間がいるところでは行政側と折り合いをつけて、始めてもらいたいと強く思います。
あと、東京が特別だと思うのは、東京都と特別区の二重構造です。どちらの行政で受け止めてもらうかという話は、民間が話し合えば方向が見えてくるのかなという気はします。
山本:地方都市は公民連携が大きなテーマになっています。基本的には民間が主導して行政が支援するというかたちが考えられているわけですけども、そのときにやっぱりビジネスマインドとか、民間の人がどういう考え方でやっているのかということを理解してもらうために、公務員の方を再教育するような取り組みも現れています。それによって行政がうまく立ち回ってくれて、中心市街地の活性化が起こっている場所もあります。
吉澤:人材交流をしたほうが、お互いの立場が分かるというのはよく分かります。実際に渋谷区に東急から行っていますし、すごく価値のある話だと思っています。一方で人材交流をしつつ、渋谷未来デザインとエリアマネジメントの立場でやろうとしていることがかぶってしまったりして、役割分担をもう少し整理したほうがいいかな、と思ったりはしますね。
齋藤:なるほど。そういう意味では国や行政との関わりもありますね。例えばJRさんは数十年前に民営化されたとはいえ、けっこう行政とも関わりがあると思いますが、人材交流もしくはアイデア、視点の共有みたいなところで課題などは何かありますか?
片山:もちろん行政と企業で、縦割りはもちろん大きな問題としてありますが、一方で経営層とか局長級のような層と、こうした実務の問題点を抱えている層とのつながり不足も、あるのかなと思います。今日みたいに実務の課題もきちんと出て、上のほうの層にも実際に政策として動かせるくらいの力をもっている人の間をつなぐような役割の部分がたぶん必要になってくるでしょう。もしかしたらこのURBAN VISIONARYはそういう場所になりうるというのは、今日の話を聞いていて期待するところです。
齋藤:そうした意味では、URBAN VISIONARYにも行政の方とか、国、自治体、区の方、もしくは東京都の方がもっと集まって、立場というよりは東京を本当につくっている人間として、みんなで車座的に、ビジネスはどうするといった話ができるといいですね。最近のPark-PFIのように「この場所で民間活用で稼いでください」と大手を振って言えるようになった時代って、すごいなと思うのですよね。たぶんそういう行政の方々と連携しながら話すというのは、このURBAN VISIONARYもそういう役割があるのかなとすごく思いましたね。
最後にお1人ずつ違う立場から、コメントいただければと思います。
重松:議論していて改めて思いましたのが、デジタル化とかDX化が変化の手がかりになるのは明らかなのだろう、と同時に、大きなものに対する1つのアプローチだけではなくて、今ある単位みたいなものをつなげていく発想から出てくること、つながっていくことや見えていくことでお互いの違いとか良いところを磨き合う成果が出てくるのかなと思います。
最後に行政と民間の違いの話が出て、役割分担の話が出ました。これは本当に大事なことだと思っていまして、街づくりは行政だけでもできないし、民間だけでもできません。東京はわりと民間主導型でやっていますけど、地方はやっぱりスーパー公務員みたいな人がいるようなところが街づくりは進んでいく。いくつかのパターンがあっていいと思うのですが、公共と民間の在り方自体も、たぶんDXという切り口の中でインフラ的なものの概念変化というものが発生しているので、そこでの関わり方が変わってきているなという気もします。
雨宮:私もその都市計画と都市開発のギャップという話があって、大きな都市の計画、アーバンデザイン、プランニングがあって。そこには実現手段を持ち合わせていないので、これまでは民間企業がいろんな都市開発制度を駆使しながら開発をしてきたというところがありました。ところがそれではなかなか次に行かないよというところで、デベロッパーの立ち居振る舞い、エリアマネジメントやソフトの街づくりなどに向かうなかで、こうした場で議論をさせていただくと、やはり人なのだろうなと思います。今日みたいな取り組みが行政と民間をつなぐものになっていきますし、遠回りのようでこうした活動がやはり一番大事なのではないかなと思いました。
東京とか日本は変なところがリベラルというか、公平性の原則で関与しないことになってくるのですが、そろそろ質のいいものを効率よくつくっていくことを行政もデベロッパー側も意識していく時代に入っているのだと思います。そのための仕組みがどうなるのかというと、ちょっと抽象的ですが人しかないので、こういうところでいろんな輪が広がればいいなと思ったところです。
片山:途中で齋藤さんが言われていたクライテリアを揃えるという部分について、デベロッパー間だけではなく、行政を含めた同じクライテリア、同じ目標値みたいなものを持てるといいのだろうなと思いました。
吉澤:行政の話で思ったのが、縦割りみたいなプロトタイプイメージもあったりするなかで、みんなが同じこと考えて規制するのだろうと思っていたら、個人の判断というか法令の解釈で、人によって温度差があることは日々感じています。行政も民間も仲間というか、同じノウハウがきちんと継承されるようにすることが、ビジョナルアクションの小さい積み重ねでも重要なのかなと思います。それで、今日参加させていただいて、こうしたつながりができたのは本当に良かったと思いますし、それぞれの人がさらにまた仲間を増やすことが重要かなと思いました。
中:久しぶりにリアルで話してみると、やっぱり人と会って話して考えるということがすごく重要だなと実感します。東京の未来は、やはり面白い人たちが頭の中にあるいろんなことをぶつけ合って、考える。それによって出てくるものなのではないかというのは、すごく感じています。
山本:街づくりは賑わいで安心するな、という話があります。賑わいは、経済の話とは別なので、少なくとも人流と購買データなりが結びつかないと、そこでテナントが全然居付かない理由が分からなかったりすると思うので、どのようなデータが必要なのかというのは、もう少し考える余地があります。また、経済性を軸にすると、必ずジェントリフィケーションの問題が起こって、家賃が上がって、いいテナントがビジネスのしやすいエリアに移ってしまう現象が起こると思います。これはある種致し方ないところもあるかもしれず、今は都市開発は一斉にみんながやるわけではなくて、あるエリアごとに順繰りに都市を更新していこうというのが今の東京都のビジョンなので、このサイクルの中でどう考えるかというのがビジョンの1つになるのかなと思いました。
後藤:きめ細かく小さいものが積み重なっていく、個がかかわりあっていく街のつくり方、すなわち「小さな大都市」というのは、もっと追求すべきビジョンなのかなと改めて思っています。部分の積み上げで出来上がった東京が世界最大3千万の都市というのは稀有なモデルだと思うので、次はそうした議論もしたほうがいいのかなと思います。
最初に福岡の事例の話も少ししましたけど、禁門の変で大砲打ち合っていた薩長が3年後に同盟結んで、2年後に明治維新を起こすわけですよ。実は、現場が話をしていろいろやっていく動きは社会全体を突き動かしていく、意外と早く転換点に到達する気もするので、実務を踏まえてこういう場を継続してやっていくことが、未来をつくるのに大事なのかなと思いました。
齋藤:最後に僕も少しコメントさせていただくと、ヒューマンセントライズとか人を中心にという話は、コロナの前から出ていました。今日はワークショップでも思ったのですけど、デベロッパーという人たちの顔が見えていないのだろうなと思いましたね。
それをするために、このURBAN VISIONARYもそうですけど、各社さんに顔を出していただいて、どういう考えをお持ちなのか、これは個人の意見でもいただけるというのは、すごく大事なことかなと思います。まずは、顔が見えることが大事なのかなと思いました。
今回初となるワークショップ形式を通じて、大きな目標と行動するための指針の両方が具体的になった「202X URBAN VISIONARY vol.7」。ディスカッションでも、登壇者の背景とともに東京への思いがいっそう浮き彫りになる回となりました。
顔が見える「202X URBAN VISIONARY」の活発なディスカッションは今後も楽しみですし、その先に、顔の見える東京の再開発の姿やプロセスには大いに期待が高まります。
Photo : Chihoko Ishii
Text:Akiko Toyoda, Jun Kato